~再犯業者による同一侵害案件への苦情申立てが認められる要件はなにか~

はじめに

中国輸出入商品交易会(以下、広交会)では同一の知的財産権侵害を繰り返す業者が絶えない。しかし、広交会が設けている苦情申立て窓口ではこのような案件を基本的に受理していない。
知的財産権者のおおくはこの現状に疑問を抱き、なんらかの対処方法を模索してきた。
BOBも今年の秋季広交会において、権利者の委託により、複数の知的財産権侵害案件への対策を講じた。そのなかのひとつは商標権侵害の再犯案件であり、前 回の広交会で申立てた侵害案件をその後、法的に訴追したことを証明する文書を提示できず、「知的財産権侵害嫌疑苦情申立て処理規則」(以下、「知財権侵害 苦情処理規則」)10条を根拠に、苦情申立ては受理されなかった。
本稿はBOBの実務経験をもとに、この条文の解釈のあり方を論ずるものである。

1. 広交会と知財権侵害苦情処理規則
広交会は1957年に創設され、毎年、春と秋に広州で開催されてきた。中国で最も歴史ある最大規模の展示会であり、国内企業と海外企業との取引のためのプラットフォームを提供してきた。
一方、知的財産権侵害業者もこの機会を利用し侵害品を出展してくる。それらは広交会をとおして海外に流通し、権利者におおきな損害を与えてきた。
広交会はそこで、会期内において知的財産権侵害を取締まり、権利者の利益を保護するため、「知財権侵害苦情処理規則」を制定している。
ただ、問題はこの規則が再犯業者による同一侵害案件への苦情申し立てに対し、十分な効力を発揮しないことである。以下、その理由を説明する。

2.「知財権侵害苦情処理規則」10条の内容

「知財権侵害苦情処理規則」のなかでこの問題に関連する内容は10条に規定されている。すなわち、「苦情申立て窓口が前回すでに処理をした知的財産権侵害 苦情申立てについて、今回も引き続き同様な権利侵害の個別な事案を発見した場合、苦情申立て側は前回の広交会閉幕後に当該案件を法的手段により対処した事 実を証明する法律文書を提示しなければならない。苦情申立て側が法律文書を提示できない場合は、苦情申立て窓口は当該苦情を不受理とすることができる。苦 情申立て窓口は通常、同一の苦情申立て側が同一の知的財産権に関して同一の苦情申立て対象に申立てた重複する苦情申立てを受理しない」と。

関連資料 http://www.jetro.go.jp/world/asia/cn/ip/law/pdf/regional/20100414.pdf
ここでいう「知的財産権」とは著作権、専利権および商標権を含んでいる(同23条)
この条文の問題は、本来であれば「原則」のつぎに「例外」が置かれるべきであるところ、その位置関係が逆になっていることである。そのことが理解を難しくさせ、主催者側の判断を誤らせる原因ともなっている。

3.苦情申立て窓口における対応
苦情申立て窓口には工商行政管理局のスタッフが期間中、常駐している。BOBが彼らから話を訊いたところ、以下のことがわかった。すなわち、「知財権侵害 苦情処理規則」10条の規定については、苦情申立て窓口にいる工商部門のリーダーと主催者側とは見解を異にしているのである。
工商部門のリーダーは、たとえ苦情申立て側が前回の広交会閉幕後に法的手段により案件に対処したことを証明する法律文書を提示できないとしても、いったん侵害と認定された限り、苦情申立て側の請求は受理されるべきだと判断している。
一方、主催者側はこれとは反対の見解を有しており、案件は受理されるべきではないとしている。
ふたつの異なる意見が交わされた結果、主催者側の見解が採用され、最終的には同一案件に対する苦情申立ては受理されないことになったとのことである。

4.10条の適用状況
「知財権侵害苦情処理規則」は2010年4月14日から実施され、これまでBOBが同一権利者の依頼を受け、広交会で同じ商標権侵害につき、同一侵害業者 を苦情申立てする事例も少なくない。前回の広交会閉幕後に法的対応を行ったことを証明する法律文書は提示せずとも、苦情申立て窓口が案件を受理し処理した ケースもある。
ただし、今年の秋季広交会で1件のみ、そのような文書の提示が求められた事例がある。
したがって、この規定は施行以来、厳格には運用されていないことがわかる。しかし、今秋の広交会では1件だけではあるが、10条が厳格に適用されている。このことは今後、同様の処置が行われる可能性があることを示しているのかどうか、注視してゆく必要がある。

5.知的財産権権利者の対応~結びにかえて
これまで見てきたとおり、この規定は厳格に適用されてきたとはいえないが、今後もおなじ状況で推移するのかどうかは明らかではない。厳格に適用される可能性も排除できない。
そこで、知的財産権権利者は広交会における権利保護を推進すると同時に、広交会閉幕後には展示会で発見した権利侵害案件を法的に訴追し、できる限りの関連法律文書を入手しておくべきである。
ここで言及した関連法律文書とはおもに、行政執行部門の処罰決定書、是正命令通知書、特許侵害裁定書、人民法院の判決書など政府機関が発行する侵害事実を証明できるものである。
仮に権利者がそのような対処を怠った場合、当該規定は不法業者を利し、彼らの侵害行為はさらに悪質になることも考えられる。
BOBは引き続き同規定を注視し、改正を働きかけるつもりである。

上海博邦知識産権服務有限公司
模倣対策事業部
刘 湘前
2014-12-28