はじめに
商標権者がその事業領域を規整する行政法に違反し生産・販売した製品への商標の使用は、商標法が規定する「使用」として認めてよいのか。そのような「瑕疵のある」商標は取消されるべきなのか。本稿はこの問題を検討する。

検討
商標権者が登録商標を指定商品に使用する場合であっても、当該商品が関連行政法の必要手続きに違反して生産・販売されることがある。たとえば、生産許可証、衛生許可証、輸出入許可証を保有していない場合である。これは食品、薬品、化粧品、医療器械、輸出入などの事業分野で頻発している。

以下は不使用取消事件において、そのような商標の「使用」が問題となった事例である。

(1)「康王」商標不使用取消審決取消訴訟(案件番号:最高裁判所(2007)行監字第184-1号拒絶査定不服審判申立通知書)

本件は「康王」商標の使用者である企業が、化粧品の生産・販売などの許可を得ずに商品を流通させていた事件で、行政における強制規定に違反していた。
不使用取消審判では、「康王」商標の使用証拠が違法であることを理由に、当該商標の取消しがを認められている。
最高裁判は以下の理由で審決を支持した。すなわち、商標法における商標の「使用」とは、事業活動の中で商標を使用することを指す。強制・禁止的な規定に違反する生産・販売活動において商標の使用行為を認めるとすれば、違法行為の放任としかいえず、商標法における商標の使用に関する規定の趣旨に反する、と。

(2)「卡斯特」商標不使用取消審決取消訴訟(案件番号:最高裁判所(2010)知行字第55号行政裁定書)

本件は「卡斯特」商標の使用権者が販売していた赤ワインは葡萄酒の輸出入許可がなく、「輸入酒類国内市場管理弁法」に違反していたというものである。
不使用取消審判においては、「卡斯特」商標の使用証拠が合法であることが認められ、登録が維持された。
最高裁判所は以下の理由で審決を支持した。すなわち、商標3年不使用取消制度の立法趣旨は商標の限られた資源を活用し、使用されていない商標を整理することにある。取消はただの手段であり、目的ではない。そのため、事業活動で登録商標を使用し、その使用行為が商標法および関連する法律に違反していないのであれば、商標権者は法的な使用義務を果たしたことになる。本件は商標権者の提出した証拠により認定された。本件商標の使用がほかの法律に違反してなされたことについては、商標法が規制する問題ではない、と。

事業活動における商標の「合法的な」使用の内容に関しては、これまで議論がなされてきた。ひとつは、商標の使用は強制・禁止規定に違反していないかぎり、合法的であると考えてよく、商標の使用行為がなされるなかで、商標法以外の法律に違反する行為があった場合は、当該法律が適用されるに過ぎず、商標使用の認定には影響が及ばない、というものである。
これとは反対に、いったんなんらかの法律に違反した場合は、商標の使用とは認められないという考え方もある。
最高裁判所が下した上記の異なる判断はその代表的なものである。

筆者は「卡斯特」事件における最高裁の判断を支持する。商標法49条2項が「登録商標が正当な理由なく継続して3年間使用しなかったときは、如何なる単位または個人も、商標局に当該登録商標の取消を請求することができる」、と不使用取消制度を規定する一方、同48条は「この法律で商標の使用とは、商品、商品の包装若しくは容器及び商品取引書類上に商標を用いること、または広告宣伝、展示およびその他の商業活動中に商標を用いることにより、商品の出所を識別するための行為をいう」、と商標の使用について定めている。条文上、3年間内に使用した商標を取消しできる状況にはない。法律法則違反の商標使用行為などには言及していない。

そもそも、商標法が規定する3年不使用取消制度の立法趣旨は、商標が限られた資源であり、商標権を得ることはその限られた資源の独占を意味するから、「退蔵された」商標を整理することにある。すなわち、制度趣旨にしたがってなされた商標登録とその使用を実現させるため、「邪魔もの」を消すことにあり、当事者の商標使用が法的に瑕疵のないものかどうかを判断するためではない。「康王」事件における裁判所の判断は商標法の立法趣旨に合致していない。

結論
「瑕疵がある」かどうかにかかわらず、商標は出所を識別するかたちで使用されれば、商標法が規定する「使用」に該当するといえる。行政法に違反した生産・販売活動は当該行政法が適用されることで足り、登録商標を取消すべきではない。そのような場合であっても、当該商標は識別機能を発揮しているから、実際の使用で蓄積した信用を守り、業界発展につなげるべきである。使用されている登録商標を護るため、商標法違反行為と行政法違反行為とは区別されなければならない。

 

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钱旻 姚暁晴
2015-07-04