2016年4月19日

各位

上海博邦知識産権服務有限公司
IP登録事業部
部長 弁護士 銭 旻

抜け駆け出願の増加と審査品質低下への準備
~自然人の商標出願資格についての変遷過程の総括~

用語解説
本文でいう自然人は、一般にいう個人および個人事業主を含む。中国では、法人格のない個人事業主(個人商、露天商)であっても、工商局において正式な商業登記を取得することが義務付けられている。これらの個人事業主は中国語で「個体工商戸」と呼ぶ。

はじめに
2002年の商標法改正により個人事業主およびその他自然人(以下、自然人)の商標出願に対する制限が緩和された経験に基づき、短期間に大量出願が出る可能性は高いと考える。したがって、駆け抜け現象は再び悪化するかどうかについて大いに注意が必要である。また、商標局の審査期間は再び深刻な影響を受け、規定の審査期限内に完了せず、審査品質の深刻な低下につながる恐れがある。

著名企業がまず不正の目的の監視を強化すること。また、自分の出願商標に対し、戦略的な計画を立て、長めになる審査周期に対応するために、十分な時間を確保するべきである。もちろん、個人の商標出願制限が緩和されることは著名企業にとって、すべて不利ではない。たとえば他に方法がなくどうしても相手から商標を買わなければならない状況におかれた場合、相手からの高価な価格付けすることを避けるため、1つの解決方法としては会社の名義ではなく、個人の名義で駆け抜けした商標を購入することができる。

一、中国における自然人の商標出願資格の変遷歴史および相関根拠

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二、2007年に商標局が下した自然人の商標出願に対する制限の原因

1. 自然人からの大量駆け抜けまたは不正目的の商標登録出願を抑制
2002年に商標法が改正され、個人として出願できるようになったのち、自然人の出願件数が急増するとともに、駆け抜け登録の現象が深刻化した。統計によると、駆け抜け商標の主体は個人や中小企業が中心であり、そのうち、個人が70%以上(文末資料3) を占めている。

2.商標出願審査業務を減少させ、行政資源の効率化を図った。
自然人に対する商標出願を制限して以来、商標局における出願数は明らかにコントロールされ、商標出願を寝かせる問題は有効に緩和された 。

三、自然人の出願資格に対する制限が再び緩和された理由

1 .商標局が発表した「自然人の商標登録出願に関する注意事項」の合法性に対し、疑問が出されている。この文書の内容は商標法の解釈によるものであり、立法解釈または司法解釈のみで法律効力を生じる。この文書は全国人民代表大会の審議のものではなく、最高人民法院の解釈のものでもない。したがって、商標局が商標法を解釈しただけであることから、手続きの正当性に欠けている。

2 .中国は自然人の出願資格のみを制限してきた。しかし、法人企業が事業範囲を超えた場合は制限を実施してこなかった。海外の自然人に対し、香港・マカオ・台湾を含め、同様な制限も実施しなかったため、深刻な不平等の現象につながった。これも社会から非難されている。

3.現在伝統的な工商管理制度は、束縛からゆったりと開放へ向かっている。例えば、会社登録登記の商事制度改革はひとつの例証である(文末資料4)。モバイルインターネットを事業の主要な場所とし、また空間のマイクロ微商(微商とはウェイチャットで販売する自営業業者のことを指す)はますます新しいビジネスモデルになってきた。伝統的な個人管理モデルは、商標出願モデルも同様に時代の発展についていけないものである。現在の中央政府は大衆創業、万衆革新を背景に、再び個人の商標出願に対する制限が緩和させることも、水が流れてくれば用水路はできるとのことである (文末資料5)。

四、最後に

中国商標出願主体および登録指定商品・役務区分の制限に関する概念図

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2007年2月6日に商標局が発表した「自然人が商標を出願する際の注意事項」

商標法 4 条の規定に基づき、商標権を取得する必要がある生産、製造、加工、選択、取次販売或いはサービス業に従事する自然人は、商標局に商標登録をしなければならない。個人名義での商標登録、譲渡等の申請には、規定に従い「商標登録申請書」と商標見本などの資料を提出する以外、以下の事項を注意しなければならない。

一、 個人経営者は「個人経営営業許可証」に登記されている商号を出願人名義として商標出願を行うことができる。また許可証に記載されている責任者名義での商標出願もできる。責任者名義で出願する際に以下の資料のコピーを提出する必要がある。
(1)責任者の身分証明書
(2)営業許可証

三、 農村請負経営者場合は、請負契約の契約者名義で商標登録出願を行うことができ、出願時には以下の資料のコピーを提出する必要がある。
(1)契約者の身分証明書
(2)請負契約書

四、 その他の法により経営活動許可を得た自然人は、関連行政主管機関が発行した登記文書中に記載されている経営者名義で商標登録出願を行うことができ、出願時には以下の資料を提出する必要がある。
(1)経営者の身分証明書
(2)関連行政主管機関発行の登記文書

五、 自然人は商標登録出願ができる商品と役務の範囲は、営業許可証或いは関連登記文書に認可されている事業範囲、また自営の農業副産物に限られる。

六、 商標法第 4 条の規定に適合しない商標登録出願について、商標局は受理しない旨を書面にて出願人に通知する。申請人が虚偽の資料で商標登録を得た場合、商標局により該当商標登録の取消をされる。

七、 商標譲渡申請手続きに関しては、譲受人が自然人の場合は上述事項を参照の上、 手続きを行う。

中国商標局より2007年2月6日

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2016年3月14日に商標局が発表した通達

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2007年2月に「自然人の商標登録出願に関する注意事項」を実施して以来、商標出願量は2006年の76.6万件から2007年の70.7万件、2000年の69.9万件まで大幅に落下した。
データ出典:商標局が公布した2008年「中国商標戦略年度発展報告」

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中国国務院が2014年2月7日公布した登録資本登録制度改革案に基づき、市場主体に参入する規制を大幅に緩和させ、参入の敷居を下げた。例えば、会社の登録資本金を払込資本金登記制度から引受資本金登記制度へ変更し、登録資本金登記条件を緩和させた。

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2002年商標法の改正前、商標出願量は年に平均20万前後であり、2002年から毎年10万を増加し、たった2年で出願量が倍増した。
データ出典:商標局サイト
http://sbj.saic.gov.cn/tjxx/200501/t20050101_55176.html

<備考>
本稿は2016年4月19日付けBOBニュースレターで配布したものをもとに、2017年8月1日に内容を補足した。