2020年1月1日

はじめに

国内外では指定商品および役務を45区分に分けて商標登録および関連の権利保護を行なっている。商標出願の経験のある者のよく知るところである。ただ、その他の区分と比べ、35類の指定役務に関する誤解や紛争が目立つ。

例えば、アリババは「双十一」イベントの前に、京東(ジンドン)の広告を削除せよと各メディアに要求した。京東の広告に使用された「双十一」はアリババ社が35類に登録している商標だからである。

「今日頭条」は広告宣伝に「今日頭条」を使用したため、北京博天恒行広告有限公司から商標権侵害で訴えられ、1億元以上の賠償金を請求された。

さらに、Tモールは2018年、「旗艦店」に対し35類の商標登録を求めた規則を発表した。

これらの話題となった事例は35類の指定役務の本質に関わるものである。その実態は何か、同区分における商標権をいかに生かし、保護するかにつき、ここで論述する。

(注)

双十一:アリババグループが2009年から毎年11月11日に行っているECの販促イベント。現在はアリババだけではなく、他のECサイトもこの日に同様のイベントを行なっている。

京東:中国の大手ECサイト

今日頭条:中国で急成長しているニュースアプリ

Tモール:アリババグループのECサイト

旗艦店:Tモールショップのひとつで、自社ブランドの名義で開設する。

販売する商品により、以下の3種がある。

⑴商品のブランドがひとつ

⑵商品のブランドは複数あるが、保有者は同一

⑶売場型

よくある誤解

誤解⑴ 自社ブランドの広告のためには、「広告」役務を指定した商標を登録しなければならない。

誤解⑵ チェーン店を運営するためには、「フランチャイズ経営管理」役務を指定した商標を登録しなければならない。

以上は35類指定役務の内容を誤って理解している。ある商品(例:食品)または役務(例:レストラン)を指定した商標を登録すれば、権利者はその商標権に基づいて広告・宣伝し、全国でチェーン店または事業活動を許諾する権利を得る。商標法48条は以下のとおり規定している。すなわち、「商標の使用とは、商品・商品のパッケージ・容器または商品の取引書類に商標を使用すること、あるいは公衆に商品の出所を識別させるため、広告宣伝やその他の事業活動に商標を使用する行為である」。35類に含まれる指定役務の広告またはフランチャイズ経営管理とは、広告会社が他社のために広告や販売促進計画を作成する役務や、コンサルティング会社が提供するチェーン店の経営戦略に関するコンサルティング役務である。

誤解⑶ Tモールで旗艦店を開設するためには35類で商標を登録しなければならない

上記はTモールの規則を誤解している。「35類における商標なしではTモール旗艦店を開設できず」というニュースが2018年9月25日、あっというまに各メディアに転載され、話題となった。知的財産権関係の会社もそれぞれ、35類における商標登録の必要性について様々な見解を発表した。しかし、この新しい規則は対象が限定されており、「売場型」の旗艦店にしか適用されない。「売場型」旗艦店とは、役務商標に基づいて複数のブランドの商品を販売するTモールショップである。例えば、Tモールの「ビッグカメラ」旗艦店は商品販売の役務を主な事業内容とする旗艦店で、「パナソニック」のテレビ、「資生堂」化粧水などを販売している。このような旗艦店は、35類に商標を登録する必要がある。通常の旗艦店、例えばSONY旗艦店で自社の「SONY」テレビしか販売しない場合には、9類における「SONY」商標登録証をTモールに提供すれば開店できる。

35類の指定役務に関わる事業内容とは

この質問を答えるためにはまず、35類の指定役務を理解する必要がある。最新の11版「類似商品と役務区分表」に35類役務に関して以下のとおりの解釈がある。

35類はおもに個人や組織が提供する役務を含む。その目的はおもに

⑴小売企業の経営や管理のために協力を提供する

⑵小売企業の業務活動やビジネス職能の管理に協力を提供する

および広告部門により各種の商品(役務)のために役務を提供する。この目的は各種のルートで公衆に広告・宣伝することである。

本区分はとくに次の役務を含む。

他人のために商品(運輸を除く)を種類ごとにまとめ、消費者に閲覧や購入のための便宜を提供する。この役務は小売店、卸売店、自動販売機、通信販売または電子メディアを通じて提供できる。例えば、ネットまたはテレビショッピング番組などがある。

上記解釈および作者の理解に基づき、35類に商標を登録すべき業界およびくわしい指定役務を以下のとおりまとめた。

No. 業界 役務 備考
広告、デザイン、

メディアの広告業務

広告のデザイン、広告の計画、広告宣伝、広告ドラフトの作成、広告代理など 1.通常の広告会社の業務

2.自社事業内容の広告はこの指定役務における商標登録は不要

ウェブサイト、

ECサイトまたは

アプリのIT会社

ウェブサイトの訪問数を増加、ウェイブサイトで広告を有料で発表、

ウェブサイトを通じて事業情報を提供、輸出入代理、

商品や役務の売り手と買い手のためにオンライン市場を提供、

他人のために販売

1.インターネットでの広告掲載業務

2.インタネットでの情報提供サービス業務

3.「オンライン市場を提供」は2015年から始まった。ECサイトの業務内容が指定役務として明確化された

4.自社ブランドの販売は「他人のために販売」という役務を指定した商標の登録は不要

ビジネスマネジメントのコンサルティング会社 ビジネスマネジメントの協力、

フランチャイズ経営管理

/
展示会会社 商業または広告展示会の開催、技術展示会の開催 /
人材募集や人事管理会社 職業紹介所、

芸能人の商業管理、

人材を選択するための心理テスト

/
秘書およびオフィスサービス会社 秘書、書類のコピー、

文書複製、

領収書の発行、

オフィス設備の賃貸しなど

/
財務・会計会社 会計、監査、簿記、

税務申告、請求書の作成

財務諸表の作成など

/
薬屋・病院 薬用・獣医用・衛生用製剤および医療用品の小売・卸売、薬品の小売・卸売など /
運搬会社 企業の場所遷移 /

現在流行っている「網紅経済」は、特性が複雑なビジネスであり、広告、販売促進、他人のために販売などの機能を同時に果たしている。上記9業界の例外として説明する。

(注)

網紅経済:インターネットの有名人が(おもにネット上で)愛用品・商品などを紹介することによって、閲覧者は同じ商品を購入する現象である。

ここで紹介した業界に関わる会社は、35類に商標を登録しなければならない。抜け駆け登録された場合、企業に深刻な被害が及ぶ。ブランドを育てるために要した費用が無駄になるだけではなく、訴えられるリスクさえある。ウェブサイト・Eコマーシャルの業務内容は徐々に35類の指定役務の範囲に入れられている。

まぎらわしい「他人のために販売」役務

「他人のために販売」役務がまぎらわしくなった経緯

類似群3503に「他人のために販売」という役務がある。これは一体どのような役務であるか、スーパーやショッピングモールからECサイト、Tモール売場型旗艦店の業務内容がこれにあたるかどうかにつき、長いあいだ議論が続いている。

商標局は2004年8月13日、四川省工商局に「国際分類35類にショッピングモール・スーパーの役務を含むかどうかの問題に関する回答」を発表した。その中では以下のことが指摘されている。すなわち、

ショッピングモールとスーパーは商品を販売する企業であり、その業務内容はおもに卸売り、小売りである。「商標登録用商品および役務国際分類」の中では、35類の内容がつぎのとおり解釈されている。すなわち、当該区分の役務の目的はおもに「小売・卸売企業の経営や管理に協力を提供する」または「企業の業務活動やビジネス職能に協力を提供する」ことである。商品販売を主要事業とする企業、すなわち小売・卸売企業の活動はこの区分に含まれない。したがって、「商標登録用商品および役務国際分類」35類の役務には「商品の卸売り、小売り」を含まない。ショッピングモールやスーパーの役務は当該区分にあたらない。同区分の「販売(他人のために)役務の内容は、他社の商品(役務)販売にアドバイス、計画、宣伝、コンサルティングなの役務を提供することである。

上記解釈のため、これらの小売・卸売企業が「他人のために販売」役務の商標を登録しても、権利主張をできない状況が長年続いている。

だた、商標行政管理機関は現在、この態度を変えざるをえない。その原因はふたつある。ひとつ目は、海外では、商品販売を35類の指定役務として商標登録および権利主張が認められる国が増えている。ふたつ目は、国内では商品販売の商標権保護に関する法律規定がないため、訴訟を通じてしか解決できず、実に不便である。商品販売を35類の指定役務として商標登録できるという規定がまだないとは言え、9版「商標登録用商品および役務国際分類」からは解釈がつぎのとおり更新された。まずは「他人のために商品(運輸を除く)を種類ごとでまとめ、費者に閲覧や購入のための便宜を提供する」の後ろに、「この役務は小売店、卸売店、自動販売機、通信販売または電子メディアを通じて提供できる。例えば、ネットまたはテレビショッピング番組などがある」を追加した。つぎに、8版の「商品販売を主要事業とする企業、すなわち小売企業の活動はこの区分に含まれない」を削除した。一方、今までも「ショッピングモールやスーパーの業務内容は同区分に含まれる」という規定はない。ただ、実際には、35類の「他人のために販売」役務は商店・専売店などの業務内容を含むとの共通認識がある。

「他人のために販売」役務のまぎらわしいところ

自社ブランドの商品を販売する企業は、「他人のために販売」役務の商標を登録すべきか。

前述した分析によれば、自社ブランドの商品を販売する企業には、「他人のために販売」役務の商標が理論上、不要なはずである。ショッピングモール、スーパーやECサイトのような商品販売のプラットフォームにしか登録する必要がない。現実には自社商品の区分以外に、35類においても商標を登録する権利者も少なくない。これは抜け駆け登録を防ぐためである。以下の「采蝶軒」事例はこの問題をよく反映している。

中山市飲食総采蝶軒(以下、中山采蝶軒と略す)は1987年に設立され、1999年10月28日に30類(麺類食品)、43類(食品および飲料を提供する役務)に「采蝶軒」商標を登録した。

安徽采蝶軒蛋糕集団有限公司(以下、安徽采蝶軒と略す)は2000年に設立され、おもにケーキの生産・販売を扱っている。2003年10月28日に35類に「采蝶軒」商標を登録した。指定役務は広告、他人のために販売などの広告である。同商標は2006年5月7日に合肥采蝶軒企業管理服務有限公司(以下、合肥采蝶軒と略す)に譲渡された。

中山采蝶軒は2012年に合肥市中級人民法院に訴えを提起した。その理由は、安徽采蝶軒が許諾を得ずに、パン・ケーキおよびパン屋の役務に「采蝶軒」商標を使用し、商標権侵害の疑いがあるというものである。賠償金は1500万元が請求された。

一審および二審はいずれも敗訴した。

裁判所の判断

合肥市中級人民法院は一審で、原告・中山采蝶軒の請求を棄却した。理由はつぎのとおり。すなわち、

安徽采蝶軒の「采蝶軒」標章は役務商標として、店舗看板に使用されている。商品には使用されていないため、関連公衆を誤認混同させることはない。そもそも役務商標は役務を提供する場所およびその看板に使用できる。

中山采蝶軒の43類「采蝶軒」商標は「レストラン、ファストフード店」を指定役務とし、「パン屋」という役務を含まない。日常生活の中で、「レストラン」と安徽采蝶軒が経営する「パン屋」とは役務の目的・内容・方式・対象および消費習慣などが大きく異なる。

したがって、被告・安徽采蝶軒の行為は原告・中山采蝶軒の登録商標権を侵害しない。

二審は一審の判決を維持し、控訴を棄却した。

中山采蝶軒は最高人民法院に上訴し、勝訴した。

最高人民法院はつぎのとおり判断した。すなわち、安徽采蝶軒が使用する「采蝶軒」標章は中山采蝶軒の登録商標と外観・称呼・概念が同じである。書体が異なっても、外観がほぼ一致しているため、同一商標に該当する。安徽采蝶軒が生産・販売する商品および提供する役務は、中山采蝶軒の登録商標権を侵害した。安徽采蝶軒は相応の民事責任を負う必要がある。

中山采蝶軒は勝訴するためには多大なコストを投入した。35類において商標登録をしていなかったことで、抜け駆け登録にたいして打つ手がないところだった。このような事態を防ぐため、35類の指定役務との関連性が弱くとも、多くの企業はこの区分で商標を登録せざるを得ない。この問題には中国における複雑な権利侵害実務、行政機構の多様性、裁判所による35類の指定役務に対する誤解などの原因がある。

まとめ

上述のとおり、35類の指定役務は非常に複雑である。色々な理由から、小売り企業が同区分の指定役務についてよく理解できず、戸惑う状態が長年続いた。一方で、中国における複雑な実務に対応するためには、同区分で商標を登録する必要がない企業であっても、予防策として登録せざるを得ない。35類の商標登録から、複雑でどうしようもない現実を反映している。

執筆者    BOB Intellectual Property Service Ltd.
IP登録事業部
部長 弁護士 銭 旻

添付:Tモールの規則
https://rule.tmall.com/tdetail-9253.htm?spm=a2177.7731969.0.0.4b37c32f0oOeGM&tag=self