———「無印良品」商標行政訴訟事件——

中国商標法31条は「商標登録出願は先に存在する他人の権利を侵害してはならない。他人が先に使用した一定の影響力のある商標を、不正な手段で登録してはならない」と規定している。
後段の「他人が先に使用した一定の影響力のある商標を、不正な手段で登録してはならない」との規定は、未登録商標を保護するものである。これによると、「先使用」、「一定の影響力」、「出願者の悪意」という3つの要件を充たす必要があることがわかる。
ここにある「先使用」について、未登録商標が先に使用された地域は中国大陸に限定されなければならないか、香港、台湾、マカオ地域における使用であってもよいのかどうか、行政や裁判所では争いがある。
中国以外の国はもちろん、香港、台湾、マカオ地域においても中国大陸と違う法律が適用されているため、法的に違う地域とみなされ、それらの地域における商標の使用は、中国国内の使用とみなされるべきではないとの考えが有力である。
現在、中国の裁判所では香港、台湾、マカオにおける使用を中国大陸における使用とは認めないことが多い。たとえば以下の事案がある。

事案1:株式会社良品計画VS中華人民共和国国家工商行政管理総局商標評審委員会、北京棉田紡績品有限公司商標異議申立不服審判行政紛争案

株式会社良品計画(以下、良品計画)は1999年11月17日、中国商標局に「無印良品」の商標登録出願を行い、登録を受けた。指定商品及び役務は第 16、20、21、35、41類である。一方、南華公司は2000年4月6日、第24類(タオル等)を指定商品として「无印良品」なる商標登録出願を行 い、2001年1月28日に審査を通過し公告された。2004年8月2日、当該商標は商標局での移転手続を経て北京棉田に譲渡された。なお、「无」は 「無」の中国語表記である。登録番号は第1561046号である(以下、係争商標)。良品計画は係争商標の取り消しを求めて登録異議申し立てを行った。し かし、商標局は申し立てを認めず、係争商標を登録した。良品計画はこれを不服として商標評審委員会(以下TRAB)に復審申請を行ったが、TRABも、係 争商標の登録を維持する裁定をなした。その後、良品計画は訴訟を行った。
良品計画は2000年4月6日以前から、「無印良品」商標を海外および香港地区で第24類のタオル等を指定商品として使用していた。良品計画は、南華公司 は中国海南省にあり、香港と隣接しているため、「無印良品」商標を知っているはずであり、係争商標の出願登録は商標法31条の「他人が先に使用した一定の 影響力のある商標を、不正な手段で登録してはならない」との規定に違反していると主張していた。

北京市第一中級人民法院(以下一中院)は以下のとおり判示した。すなわち、第1561046号商標が出願された以前から、良品計画の「無印良品」商標は海 外および香港において第24類のタオル等の商品に使用された事実は証明できるものの、中国大陸で使用され、かつ一定の影響力を有していることは証明できな い。したがって、商標法第31条に基づく良品計画の訴えは成立しない。「無印良品」商標が香港で周知であったとしても、中国大陸においても周知であるとは みなされない、と。
北京市高級人民法院(以下高院)は以下のとおり判示した。すなわち、良品計画は「無印良品」商標が中国大陸で使用され、かつ関連する消費者のあいだで周知 であることを証明できていない。したがって、良品計画の商標法第31条に基づく訴えは成立しない。よって、係争商標の出願登録行為が不正の目的のもとで行 われたかどうかは検討する必要はない、と。

高院は商標法31条の適用につき、中国大陸における先使用という要件が充足されないかぎり、不正の目的を検討する必要はないと判断している。
これは、商標法31条の後半部分が規定する三つの要件をすべて充たさない限り本条は適用されないという意味なのであろうか。また、「先使用」に対しそんな に厳しい制限があるのか。これら点については裁判所の内部でも意見が異なっているようである。一中院の知的財産権庭審判長芮松艳氏が発表した「商標関係の 行政案件審理状況に関する総合分析」なる論文には以下の内容が含まれている。すなわち、商標法31条にある「先使用」、「一定の影響力」、「出願者の悪 意」という三つの要件は有機的に結合しており、切り離して判断すべきではなく、それらの要件を絶対的、かつ高い条件や基準を設定すべきではない、と。

商標法31条にある「先使用」の地域限定の問題について、裁判所はこれまで要件を緩和することもあった。もう一つの「無印良品」商標行政訴訟の事案がある。

事案2:香港盛能投資有限公司VS商標評審委員会、株式会社良品计画商標行政紛争訴訟案

株式会社良品計画は、イギリス、日本や香港、いくつかの国で第25類(被服など)を指定商品とする「無印良品MUJI」「MUJI」商標を登録していた が、中国は含まれていなかった。その後、1991年11月28日に香港で第25類を指定商品とする「無印良品MUJI」商標を出願し、1995年6月30 日に登録された。香港企業、盛能投資有限公司(Jet Best Investment以下JBI)は1994年2月8日、中国で第25類を指定商品とする「無印良品」商標を出願し、翌年の11月28日に登録された。良 品計画が1991年に香港に出店した事は多くの香港メディアでも報道されている。また、その後良品計画は1994年のJBI中国出願時点では6店舗にも業 容を拡大していた。株式会社良品計画は登録無効取消審判請求を行った。
これまで中国国家工商行政管理総局商標評審委員会(以下TRAB)や北京市第一中級人民法院(以下一中院)から良品計画の主張を認める審決や判決が出されている。一方、JBIはこれらを不服として北京市高級人民法院(以下高院)に訴えを提起した。
TRABは以下のとおり認定している。すなわち、商標第31条における「使用・一定の影響力」とは中国大陸部において」と解されるべきである。良品計画の 香港における使用および影響力は本条の規定には適用されないため、良品計画の本条に基づく訴えは成立しない。ただし、JBIの実際の使用態様から、良品計 画が先に使用したように「無印良品」「MUJI」(両方とも良品計画が先使用)を組合せて使用していることがわかった。また、JBI販売員は「これは日本 の有名なブランドだ」と消費者に説明するなど、登録出願時および使用時の主観的悪意の存在は明白である。結局、商標法41条の「その他不正な手段で登録を 得た場合、商標局はその登録を取消す」の「その他不正な手段」に該当すると判断し、JBIの商標は取消されるべきと裁定した。
一中院の判断はTRABのそれと同じであった。すなわち、商標法41条に該当すると判断しJBIの商標は取消されるべきと判示した。

その後、JBIは再び北京市高級人民法院へ上訴したが、高院は一審の判決を支持した。ただし、その理由付けは多少異なり、以下のとおりである。すなわち、 一中院による41条の適用には一部妥当ではない部分が認められる。商標法31条は、「他人が先に使用している一定の影響力のある商標を不正な手段で登録し てはならない」と規定している。その「不正な手段」とは、おもに係争商標の登録者が意図的に他人の商標の名声を利用し、不正な競争を行う不正の目的を指 す。不正登録された未登録商標が「使用されていたか、また一定の影響力があるか否かを検討する際に中国大陸部と限定する必要はない」と判断した。本事案に おいて、良品計画の先使用商標は中国大陸での使用実績はないものの、良品計画は先に香港で商標を登録し、実際に使用していた。JBIが香港企業であり、良 品計画の商標が使用された地域と同一であるうえ、同じ業界に身を置く者同士である等の要因があり、JBIは「無印良品」商標を登録、使用した際、明らかに 悪意があり、その行為は「他人が先に使用している一定の影響力のある商標を不正な手段で登録した」ことを構成する。これにより『商標法』31条の規定に基 づき、盛能会社の登録商標を無効とし、取り消した。

本事案からみれば、商標法31条における「先使用」「一定の影響力」「不正の手段」という三つの要件は有機的な統一体であり、各要素を総合的に判断すべき であるとの判例が確立した。抜け駆け登録者の不正の目的を十分に証明できれば、登録商標の使用を中国大陸に限るという要件は商標法31条状上、必須ではな いという観点もある。

北京一中院の知的財産権庭審判長芮松艳氏が発表した「商標関係の行政案件審理状況に関する総合分析」なる論文に以下の内容が含まれている。先に使用した商 標の知名度(一定の影響力)は、後で商標を登録した者が所在している地域に及ばす場合、先願商標の知名度を知ることを看做され、後で出願した人は主観的な 悪意性があるという主張。この主張により、商標法第31条の「先使用」に関して、抜け駆け登録者は権利者と必ず同じまたは隣接している地域に位置すること が必須要件ではないことがわかった。この主張から、先に使用した商標は、その知名度や影響力が中国大陸に及ぼす場合、中国における使用を看做される可能性 があると考えられる。

以上から、未登録商標が中国大陸で抜け駆け登録されたとしても、中国大陸で使用されてないのであれば、商標法31条の規定により当該未登録商標が保護される可能性はある。少なくても、以下二つの証拠を挙げれば、権利者にとって有利な審理結果が下されると考えられる。

1.権利者の商標が香港、台湾、マカオ地域において周知であり、また各種ルートによってすでにその商標の影響力が中国大陸に及ぼされていたこと。使用実績、またはまもなく使用するため行う宣伝活動等の証拠も可。
2.相手が権利者の商標が使用・宣伝されている地域と同じ地域に属しているか、また同じ業界にある業者であることをを立証。また相手側の商標使用の際、故意に誤認混同させる行為等、相手の主観的な悪意性の有無を立証。

商標法31条が規定する要件が完全に緩和されるまでまだ時間が要すると考えられる。しかし、その一部またはすべての要件を満たせば、行政また司法機関では不正の目的による登録行為に対し審理を重要視している現状から、一定の勝算があると考えられる。

 

上海博邦知識産権服務有限公司
執筆者:登録事業部 銭旻 姚暁晴
2014年06月23日